高校野球では、時に、気持ちの強さが技術を上回り、思いがけないようなドラマを作ったり、歴史に残るような大逆転劇を演じることがある。
高知商業を指揮している上田修身監督もまた、技術指導以上に、気持ちの部分を重視した指導で、低迷していた母校を復活へと導いた。
上田監督が就任した当時、かつて、自身が主将を務め、センバツ制覇を果たしたチームと、野球のレベルの差はほとんどなく、技術面での課題は少なかった。
そのため、練習メニューを大きく変更したり、新たなものを追加するなどの措置をとる必要はなく、質を見直せば、甲子園出場は簡単と考えていた。
しかし、メンタル面での課題は大きく、特に、全国常連で、県内最強と称されている明徳義塾に対する「名前負け」からの連敗が続いていた。
事実、技術の差のない年でも、名前を見ただけで、試合前から必要以上に力が入って空回りし、試合になればペースを崩され、自滅して負けるというパターンが、往々にして見受けられていた。
そんなチームの自信のなさを克服するために、上田監督は、「洗脳」にも近い、荒療治を開始し、苦手意識をゼロにする努力を選手たちだけでなく、自らにも課していった。
選手たちには、試合前に、自身の現役時代の明徳義塾戦の勝利映像を見せ、勝つイメージを植えつけると、自らは自チームの選手の好プレーをひたすら眺め、ポジティブな思考を持つようにした。
また、打力や身体作りなども明徳義塾より上のレベルを目標にし、苦手意識をメンタル技術共に、一切持たせないようにさせた。
迎えた、就任3年目の夏では、前年の神宮大会王者である明徳義塾を敗り、甲子園出場を決めるなど、まさにメンタルで勝利をもぎ取ったのであった。