高校野球だけでなく、監督が選手起用や采配を行うスポーツでは、選手は自然と指導者の信頼を得ることを意識してしまう傾向がある。
そんな中、金足農業を指揮している中泉一豊監督は、指導者以上に、仲間や応援してくれる人々からの信頼を得ることを求め、それらの信頼度を基準に選手起用を行う。
金足農業には、古くから受け継がれる、冬場に雪の積もる外で走り込みやトレーニングを通して、徹底して下半身を追い込む厳しい練習を筆頭に、全国トップレベルの過酷な練習メニューが多い。
OBの中泉監督は、自身も経験し、甲子園出場を果たせたことから、監督就任時からこれらの練習スタイルを継承し、後輩である選手たちを心身ともに鍛え上げている。
しかし、入部間もない1年生部員は弱音を吐き、ついていけない選手も多く、「脱根性論」を掲げる近年の高校野球のスタンスには反していることから、周囲からは疑問の声もあり、見直しを何度も行った。
それでも、これらの練習では、技術の成長やメンタル面の強化以上に、仲間や周囲の人から信頼を獲得する機会となっていることから、多少のメニューの変更は行うも、継続している。
事実、苦しさや辛さを目の前にすれば、誰であっても、楽をしたくなったり、手を抜きたくなることも多く、指導者が見ていなければ、誤魔化すこともある。
だが、そんな誘惑と自分の弱さに勝ち、続けられることで、同じ想いをしている仲間や練習を見守っている人々からの信頼を得られるようになるのだ。
選手同士がお互いが信頼し合うことで、試合では遠慮せずに、思いきりプレーができることに加え、学校や地域の人にも信頼が得られていることで、自然と応援してもらえるようになるのだろう。
技術や力だけに頼らず、信頼という武器で全国の頂点を目指す、金足農業と中泉監督の挑戦に、今後も目が離せない。