早稲田実業の歴史を塗り替える、夏の甲子園優勝へと導いた和泉実監督のが目指しているのは、「監督のいらない野球」という、独特なものであった。
数々のスター選手を輩出し、伝統と実績を持つ名門では、周囲やOBからの期待やプレッシャーで、結果を急ぐあまりに、無理矢理締めつけるような、一方通行の指導になるケースが多い。
しかし、和泉監督は、長年の指導者生活で、受け身の状態では選手が育たず、チームも勝てないことを把握していたため、時間を要しても、選手主体になるような指導を心がけてきた。
日々の練習では、グラウンドには姿を見せるも、選手たちに対して事細かに指示を出すようなことはせず、見守ることを主な仕事としている。
そのため、間違いや失敗に気づいていない場合にのみアドバイスを送るが、基本的には、選手たちが考えて行動したり、メニューを決めて練習に励んでいることも容認している。
また、近年ではインターネットなどで、プロ野球選手の動きや練習方法などの情報が得られることもあり、選手たちがそれらを取り入れ、自身の経験や考えにはない野球観を取り入れることもあるが、決して否定しない。
全ての選手が自分とは違う野球に対する考えを持っていることから、それらを尊重し、一人一人が信じる野球を突き詰めるように促し、それらのサポートを続けている。
そして、試合での采配にも、選手に任せる部分は多く、試合運びやゲームプランなどの方向性は監督が決めるも、それらの目的に対してのアプローチの仕方は、個々の判断や考えに任せている。
実際に試合をするのは、選手たちであり、指導者からの支持では限界があると考え、プレーする中で感じたことを実践する選手たちの背中を押すように、采配を振るう方が結果が出ると考えたからだ。
選手時代だけでなく、監督としても結果を残しているが、自身の価値観を押しつけずに、選手の考えや感性を尊重する指導を続ける和泉監督が、2度目の全国制覇を成し遂げる日は近そうだ。