地元兵庫の名門、報徳学園を指揮して春夏合わせて20の勝ち星を甲子園で挙げた永田裕治監督の指導哲学には、「全員野球」という信念があった。
高校野球では、強豪校とも称されるチームは、能力の高い選手のみを選抜し、選りすぐりのメンバーでチーム作りを行うことが多い。
そのため、春夏それぞれ甲子園優勝の実績を持ち、多数のプロ野球選手を輩出している報徳学園も、エリートメンバーのみでの、勝利至上主義的な野球という印象が世間にはある。
しかし、永田監督は23年間の監督生活の中で、一度もぶれることなく「全員野球」のスタイルを貫き、センバツ優勝などの実績を残している。
入部希望者は全員受け入れ、部員数が、三学年合わせて100人を越えようが、全員同じ練習メニューに取り組ませ、全員同じ練習時間を与える。
専用グランドがなく、完全下校の時刻も決められているため、一人あたりの練習量は限られ、満足のいく活動はできないが、それでも「全員野球」の方針を変えなかったのには、大きな理由があった。
それは、チームの団結力が高まることに加え、1球1球に対する集中力が増し、短い時間や少ない回数でも、質の高い練習ができ、成長の速度が向上するというメリットだ。
また、練習量が少ないという不安から、選手たちが自発的に自主練習に取り組んだり、帰宅後にもトレーニングをするなど、主体性が持てるようになるという、効果も得られていた。
報徳学園の強さとは、永田監督の作った「全員野球」というプラットフォームを、選手たちが各々に考えて、チームカラーや特性を磨き上げていたことにあるのだろう。
2020年から日大三島を指揮することとなった、永田監督の采配にも目が離せない。