2010年代の高校野球に、「機動破壊」という新たな戦略で旋風を起こし、健大高崎の名を全国に広めたのが、青柳博文監督である。
青柳監督の野球は、1つ先の塁を狙うためだけでなく、相手のバッテリーや守備にまでプレッシャーをかける走塁を武器としているが、就任当初に目指していたチーム像は全く異なるものであった。
自身の野球キャリアから、投手ならエース級を、打者なら4番のような選手を育て、投打に安定したチームが甲子園では勝つと信じ、持ち味だけで戦っていた。
しかし、全国レベルの選手を育て上げても、県大会すら勝ち抜けない状態が続き、何かを変えなければいけないという状況に追い込まれたのであった。
そこで、従来の高校野球のスタンスや自身の考えを、一度否定したり見直すことを始めると、常識や概念といった言葉で無視しつつあった、隙やチャンスの存在を見つけ出したのであった。
根拠の無い理由で否定していた野球のセオリーには、逆転の発想次第で、大きな武器となると考え、盲点の多かった走塁を鍛えることをスタートしていった。
ここでも、先入観や主観を持たないように、選手たちの能力をデータ化して、数字に置き換えながら作戦や采配を考えるようにするなど、機動破壊にとどまらず、自らの思考破壊も行っているのだ。
そんな青柳監督ではあるが、就任当初から、選手たちを「人として成長させること」は、1度も欠かさず続けている。
何事も変えれば良いという訳ではなく、自身が教育者であり、学校が教育現場であるという事実には真摯に向き合い、挨拶や返事などの社会に出た際に必要なスキルを学ばせることを重視している。
教育者、野球指導者という二つの顔を持ち、成果を出し続ける青柳監督は、現在、走塁だけでなく野球のあらゆる常識を一から考え直し、次なる代名詞を作り上げ、全国の頂点を狙っている。