「無冠の帝王」と称され続けていた母校の智弁学園を、2016年のセンバツ大会で優勝へと導き、チームの歴史を変えた、小坂将商監督。
選手時代には夏の甲子園4強を経験し、大学、社会人でも名門に所属し、第一線でプレーしていた経歴を持つ小坂監督の実績を考慮すれば、就任10年目だの全国制覇は当然の結果だと思われることが多い。
しかし、前監督の急逝に伴い、コーチとして僅か1年ほどの指導歴のみで、監督生活がスタートするなど、決して環境は恵まれていなかった。
それでも、選手たちに対して、現状の不満や自身の過去の実績、学んできた野球観を一切押しつけることをせず、目の前の課題に1つずつ向き合っていった。
自身は、スパルタ指導や厳しい練習で鍛え上げるスタイルが主流の時代に現役時代を過ごしていたが、時代の流れや選手の考え方の変化をいち早く察知し、今どきの選手たちに適した、対話や褒めることも指導に取り入れていった。
そのため、大声で叱ることはあっても、理不尽に怒鳴ったり、頭ごなしに否定することはせず、選手たちに伝えるのは、提案程度のものである。
また、選手が技術で悩んでいたり、困っている際にも、必要以上に指示やアドバイスを出さず、敢えて突き放し、考える時間と力を奪わないようにするなど、教えない教えを行うこともある。
選手に任せることは、伝え方や解釈の違いで生まれていた誤解が減り、長所や能力が消えるリスクもなくなり、レベルアップすることが増えるという、好循環が続いている。
そして、野球ノートを導入し、指導やアドバイスを送った選手の解釈や誤解の有無をその場だけでなく、練習や試合後の理解度を確認するなど、入念なチェックも行っている。